土壁の歴史
人類の誕生が約500万年前。その人類が始めて住居としたのが土を掘った横穴式の住居です。
土は住居用の建築材料として人類の歴史と共に使われてきました。
日本で左官材料(塗り壁材)として始めて土が壁に塗られたのが、西暦500年頃の飛鳥寺建築だと言われております。その後、西暦700年頃に土工司とも言われる左官職(塗り壁職人)の基礎が出来上がったとも言われております。
このような歴史ある土壁は土・藁・砂の3つの素材から出来ており、1,500年ほぼ変わらぬ形で現在まで継承されています。
土壁の性能
土壁が現在までほぼ形を変えず、継承されているのは、その機能・性能が理由の一つだと言われています。
ここでは土壁の主な性能を紹介します。
■調湿性
土壁は古くから使われている酒蔵や貯蔵庫でよく見ることができます。その理由は、気温や湿度を調節してくれる力にあります。
日本の気候は、四季によって気温が大きく変化し、さらに雨が多く”多湿”という特徴があります。酒造りには湿度や気温の調整が必要になるため、調湿性に優れた土壁が酒蔵などに活用されてきました。
日本における梅雨の時期はジメジメと不快な気候ですが、土壁の家であれば湿気を吸い取ってくれるため、室内干ししても快適だと言います。また、冬に多い結露も防止してくれるため、結露によるカビの発生やシックハウス対策にも有効とされています。
■防火性
土は本来燃えにくいものです。そのため、土壁は耐火性に優れています。
また、土壁は火に接触して温度が上がっても有害な化学物質を放出しません。建築基準法の観点から見ても、安全な防火構造と言えます。
■消臭性
土壁には、家にこもりがちな生活臭を取り除く性質があります。料理・ペット・人の汗から発生する臭いなど、家の中には様々な臭いが漂っています。
この臭い成分の大部分は空気中に含まれるため、土壁が空気と一緒に吸収してくれる働きがあります。
土壁ならではの数値では表せない性能
上記が土壁の主な性能ですが、当社土のミュージアムにご来館いただき、土の空間を体験した方、多数に言われた言葉があります。
「すごく落ち着くので、ここにしばらく座っててもいいですか?ここで読書してもいいですか?」
「あたたかさ、柔らかさ感じます。素足で歩いてもいいですか?」
「この中にいるとなぜか気持ちがホッコリします」
などです。
主な性能のように数値やデータなどで表すことはできませんが、これらの土の空間体験談は、土壁ならではの性能と言えるのかもしれません。
人の手では作れない、作為的でない表情になる土壁
土の空間体験で、もうひとつ多くいただく意見が表情の豊かさです。
例えば土は同じ材料を、同じように施工しても、経年で少しずつ色が変化します。その変化は同じように変化せず、壁面内で変化するところと、変化がそれほど見られないところに分かれることがあります。
これは、その時採取した土に含まれる鉄分などの成分含有量に違いがあるためで、調湿を繰り返すことで色の変化に違いが出ます。
また、土の「割れ」や「朽ちていくさま」などは、それ自体、人間がコントロールできない柄、テクスチャになります。
このような土の自然の風合いが、表情豊かで魅力的だと言う意見です。
経年で変化する表情も、土の性能に含まれるのかもしれません。
これからの時代に必要な土壁
土壁の素材は土・藁・砂の自然素材です。剥がした土壁を処分する場合は、廃棄処分する必要が無く、元の土に返すことができます。
また、剥がした土壁は新しい土壁と混ぜれば再び壁に塗ることができ、再利用することもできます。
環境問題が大きな問題になっている現在、エコでサスティナブルな物が求められ、自然との共生を意識する方も増えています。
ゴミを出さず、再利用できるエコな土壁は、これからの時代に必要な建築材料としても注目されています。